真実を求め戦う女性暗殺者を描く!「ライアー」

大沢在昌さんの元女性刑事が主人公の「冬芽の人」に
続き、女性暗殺者が主人公の「ライアー」を読みました。

大沢さんの作品の中で一番好きなのは、もちろん
新宿鮫シリーズですが、バイオレンスな描写も
多いので、休み休み読んでいるところです。
それでも、この「ライアー」に登場する女性は、
女版鮫島みたいで、読んでしまいました。

優しい夫と素直に育った息子に囲まれ、
幸せな家庭生活を送っている、神村奈々。
実は、対象人物の「国外処理」を行う秘密機関の工作員。
優れた判断力と暗殺技術で機関内でもトップクラスだ。

奈々は対象人物の「国外処理」を行うため、上海にいた。
夫と息子には友人に会いに行くと言ってある。
それならば家族で久々にゆっくりしようということで
夫と息子も一緒にやってきた。その二人は、釣りに行っている。
奈々はその間に任務を完了する予定だ。
仲間と入念な打ち合わせの末、任務を決行した。
完璧だと思われた仕事だったが、処理を行った
対象人物の関係者二人に顔を見られてしまった。
とっさの判断で関係者を処理し、逃亡を図った奈々だったが
意外な速さで中国の警察がホテルを包囲していた。
奈々は連行されたが、あっさり釈放された。

その後日本に帰り穏やかな日常を送っていた。
だがある日、夫が身元不明の女性と怪死を遂げた。

夫の性格と自分に寄せる愛情を考えれば、女と一緒にホテルで
死ぬなんてありえない!
奈々は冷静に状況を把握しようとした。
夫の遺体と対面させられ、事情を聞かれたときだった。
奈々のあまりの冷静さに、刑事は疑問を抱く。

奈々は夫の死の真相を知るため一人動き始めた。
しかし、そのことがさらに‘何か’を刺激したらしい。
奈々は命を狙われる。
そして、運命の歯車が狂い始めた。
次々と現れる殺人者、裏切り、謎!?。

それでも奈々は夫のために真相を追う!

奈々は生き残るため、自分の障害になるものをすべて
排除してきた。普通の人間の感情はどこかに置き忘れた。
だから夫に対する気持ちは、息子の父親という感情しか
持てなかった。自分の方が早く死ぬ。だから夫に
息子を育ててもらいたい。ただそれだけだった。

だが、夫と息子との穏やかな生活の中で大切な事を知ったのだ。
夫を失い、次第に夫が本当にしたかったことがわかると
奈々は夫に対し深い愛情を感じるようになった。

夫はなぜ死ななければならなかったのか・・・?

夫と息子のために一人で闘いを挑む奈々の姿に心が震える!
女性版、アクション・ハードボイルドの傑作。
全てを悟ったとき、奈々は亡くなった夫のために息子と生きる
決意を固める。その清々しさは何とも言えない!

『ライアー』
著者:大沢在昌
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥940(税別)

このミス大賞受賞、受賞作にふさわしい医療ミステリ「がん消滅の罠」

2017年このミステリーがすごい大賞の大賞受賞作。
「がん消滅の罠 完全寛解の謎」(岩木一麻著、宝島社)。
大賞受賞で非常に評判がよく、「前代未聞!史上最高の医学
トリック!」「謎の設定が素晴らしい!」「日本医学ミステリ
史上3指に入る傑作!」等々、最高の賛辞が寄せられていて、
このミス大賞受賞作で久々の大ヒットとなりました。

‘医療’ミステリなのにわかりやすく、非常に面白かった。
しかし、個人的には解明されない「謎」が残ったまま。
再読しないとわからないかも・・・・。

末期がんと診断され余命宣告を受けた患者が、リビング
ニーズ特約の保険金(生前給付金のこと)を受け取った。
だが受給後、病巣はきれいに消え去っていた。

同様の保険金支払いが立て続けに起きており4件目だという。
日本がんセンターに勤務する医師・夏目は、生命保険会社に
勤務する友人から、そんなことがあるのか?
と質問を受けた。夏目は、末期がん患者のがん病巣が
きれいに消え去るなんてことはない!と答えたが実際には起こった。

連続する奇妙ながん消失事件。
不審に思った夏目と保険会社の友人、そして研究医の友人たちと
謎の解明に乗り出す。
そんな中、患者たちのかかりつけの病院の履歴を調べているうちに、
聞きなれない病院に行きあたる。
その病院は、有名人や、政財界、官僚など、比較的お金に
余裕のある人たちが多く通う病院だった・・・。

謎が謎を呼ぶ展開に、難しい医学用語など無視して
ひたすら読みふけった。すごく面白い!!
余計な謎は出てこず、「末期がん」の病巣がなぜ消えたのか?
というその謎に焦点をあてて描いてあるので、
物語の展開は非常につかみやすかった。
ただ「がん消滅」のトリックは最後の最後までわからない。
想像もつかない・・・・。

「がん」について、さらに最新のがん診療についても
とても詳しく書いてあり、勉強にもなりました。

『がん消滅の罠 完全寛解の謎』
著者:岩木一麻
出版社:宝島社
価格:¥1,380

渋くてリアルで切ない社会派ミステリー「最果ての街」

「地の底のヤマ」で吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞、
日本冒険小説大賞など、数々の賞を受賞した、西村健さんの
新刊が発売されました。
実は、はまさき、西村さんの作品はこの「最果ての街」が初読み。

東京には通称「山谷」と呼ばれる巨大なドヤ街がある。
そこにある山谷労働出張所は、日雇い労働の斡旋専門の職業安定所だ。
山谷地区は、不景気のため仕事が減少、さらに労働者の高齢化など
様々な問題が多発していた。
所長の深恒は、厳しい労働条件の中でも必死に生きる
労働者たちを、静かに温かく見守りながら接していた。

そんなある日、近くの公園でホームレス殺害事件が起こった。
被害者は、山谷地区の労働者だった・・・。
警察は、ホームレスの事件は日常のよくあること
と片付け、なかなか真剣に捜査はしない。
それでも、そのホームレスの死をなんとか遺族に伝えたい!
そういう思いが募り、深恒は被害者の親族を
探そうと動き出した。家族からもあきれられるほど
熱心に被害者の軌跡をたどる深恒・・・。
やがて、被害者の意外な過去が明らかになる。

ミステリー小説の展開だが、全くそういう片鱗を見せない。
ホームレスの日々の生活を丁寧に描てあり、ものすごくリアル。
事件が起きるまで、「なぜ、ホームレスに行きついてしまうのか」
という、底辺に墜ちてしまった様々な人たちの状況が語られる。
この作品を読み、今まであまり触れることのなかった暮らしを
している人々の実態を知ることができた。
経済活動のみを優先してきた結果の陰の部分だ。
今の日本社会の歪みが、すべてこの作品のなかの
登場人物たちの口から語られている。

厳しい現実の中、それでも前を見て生きている人がいること、
希望を持てるということがわかり、事件解決したあと少し切なく
なってしまったが、読後は清々しい気持ちになった。

『最果ての街』
著者:西村健
出版社:角川春樹事務所
価格:¥1,600(税別)

想像を絶する過酷な捜査!「見当たり捜査官」

最近の警察小説は、リアルな捜査部署から、架空の
捜査部署まで、虚実織り交ぜた様々な部署を
舞台にした作品が多く、面白さに幅が出てきた感じです。
でも、戸梶圭太さんの「見当たり捜査官」を
発見して、「見当たり捜査」っていうのは
まだ読んでいない!ということで読んでみました。

「見当たり捜査」・・・とにかく過酷な捜査です!!

見当たり捜査というのは、通常の捜査班には所属せず
単独で指名手配犯を探し出して逮捕するという仕事。
時々テレビドラマでも取り上げられるが、聞きなれないので、
一般市民はもちろん、警察内部でも知らない人がいるらしい。

著者曰く、指名手配になって何年も捕まらない犯罪者は、
大都市の雑踏の中に紛れ込んでいることがある!とのこと。
その雑踏の中からたった一人の犯罪者を見つけ出す。
途方もない、気の遠くなるような仕事。

そのため見当たり捜査官は、指名手配犯の写真を見続けその顔を頭に
叩き込み寒さに震える冬も、猛暑の夏も、ただひたすら犯罪者が現れ
そうな場所に潜む・・・。

その功績で過去には警視総監賞という表彰も受けたことがある、
警視庁捜査共助課・久米山警部補は、最近全く調子が上がらず
なかなか結果を出せずにいた。負けは60敗以上・・・。
俺はほんとに税金泥棒じゃないかと真剣に悩む始末。
おまけに逮捕を焦り誤認逮捕までやらかしてしまった!
かつての自分を取り戻すべく、なりふりかまわず捜査に没頭している。

それでもやっと目当ての犯罪者を見つけた時は、身体中に電流が走る!
脱兎のごとく犯罪者の前に飛び出し手錠をかける!というか、かけたい!
だが、そう簡単にはいかない!!
犯罪者の多くは優秀な日本の警察官の手で逮捕されるが、
ずる賢いを犯罪者は、あの手この手を使って逃げる。
指名手配になっても逃げおおせる。
そんな犯罪者が、簡単に御用になるはずはない。
犯罪者の悪あがきがとにかく凄い!凄すぎる!!
久米山の逮捕への執念と、なんとしてでも逃げようとする犯罪者との
命懸けの攻防に眼を見張る。

久米山の苦悩ぶりが時におかしく切なく、そして妙にリアル。
思わず負けるな!頑張れ!と応援したくなる。

あまりに過酷で、正義とか、スマートさ、かっこよさとは
無縁の警察小説だが、ひたすら犯罪者を追う刑事の喜怒哀楽を
臨場感たっぷりに描いた傑作。

『見当たり捜査官』
著者:戸梶圭太
出版社:双葉社(文庫)
価格:¥648(税別)

ぶっ飛んだ面白さ!スパイ小説に新たなヒーロー誕生か?「県警外事課 クルス機関」

2017年「このミステリーがすごい!」大賞の優秀賞受賞作
「県警外事課 クルス機関」柏木伸介著(宝島社)
あまりの面白さにぶっ飛びました!!!

優秀賞受賞作でぶっ飛びの面白さって・・・。
ちなみに「このミス大賞」受賞作は「がん消滅の罠」です。
今とっても話題になっていて、はまさきまだ読んで
いないのですが、大賞受賞作はどれだけ面白いんだ・・
って期待がふくらみます!!!!

神奈川県警外事課の来栖惟臣(くるすこれおみ)は、型破りで
組織のやり方からはみ出すため、一人諜報組織‘クルス機関’の
異名をとっている。

上にばかりいい顔をする来栖の上司は、来栖を目の敵に
していて、いつも嫌味やひと言が多い。しかし、それが
外事課の職員の発言かッ!?とツッコミをいれたくなる
くらい世間知らずな事を言う。

来栖は、ある筋から日本に潜入している北朝鮮の工作員が
大規模テロを企てているという情報を得る。
関係者に探り入れるが、「南を差し置いて北が日本にテロを
仕掛けるなど前代未聞」と言われる始末。
だが、情報は正確だと確信している来栖は、徹底的に
調査しそれが事実ならば絶対にテロを回避すると断言する。

同じ頃、北の関係者だと思われる人物が次々と暗殺されていた。
実行犯は、呉宗秀(オ・ジョンス)。日本名は尾崎陽一。
彼は、暗殺方法や日本教育も徹底的に訓練されていた。
そして誰にも怪しまれず日本社会に溶け込み、祖国からの
指令を冷酷に遂行していた。

しかし、思いもよらない人物との出会いや謎の
女子高生の出現により、呉宗秀の完璧なる
計画に狂いが生じ始める。

国際社会において、現在、日本をとりまく危機的状況を
背景に、冷酷な北朝鮮の工作員と来栖の攻防が非常に
リアルに描かれていて、フィクションでない恐ろしさを感じる。
さらに、スパイ天国と揶揄される脳天気な日本のイメージが
刷りこまれ、よりいっそう日本の危うさを感じてしまう。

しかし、キャラクターは非常に魅力的!
一人諜報組織と異名をとる来栖が非常にスマートな
イケメンであると想像できる。
全てにおいて優秀。非常時でもクールに対処できる
公安刑事としては理想的な人物。
しかも、少しだけ組織からはみ出すやんちゃな部分も
持ち合わせ、ハードボイルド的要素が鮮明になる。
また、北朝鮮の工作員・呉宗秀のキャラは来栖よりも練られている。
冷酷な暗殺者が人の優しさに触れた時、また、あまりにも
予想外なことが起きた時、どうなるか・・・?
そこに人間的魅力を感じてしまう。

誰かの意志で自身を殺し、祖国のためのロボットに
成りきろうとしても、人は絶対にロボットにはなれない。
それがヒューマン・エラー。それこそが人間の証。
呉宗秀のキャラにそんなことを思ってしまった。

物語の背景、キャラ設定、ストーリー展開そのすべてが
申し分ない。面白さもこのミス大賞級!

来栖のその後が読みたくなる。シリーズ化してほしい1作!

『県警外事課 クルス機関』
著者:柏木伸介
出版社:宝島社(文庫)
価格:¥650(税別)

ロマンティックミステリーの傑作!サンドラ・ブラウン「最後の銃弾」

サンドラ・ブラウンと言えば、ロマンス小説の第一人者。
特に、サスペンス、ミステリー仕立ての作品はロマンティックでとてもスリリング。
「コピーフェイス 消された私」は以前、NHKでドラマ化され、
話題になりました。
はまさき、「コピーフェイス」は何度も読みました。
物凄く面白かった。その後いくつかの作品を読んでいます。
そして、「最後の銃弾」は久しぶりに読んだ傑作。
やはり、面白かったです。

サヴァナ地区の殺人課刑事のダンカン・ハッチャーは、
犯罪組織の大物・サヴィッチをやっとの思いで逮捕し送検した。
だが、裁判では証拠不十分で釈放されてしまった。
そして、その時の判事・レアードに悪態をつく始末。

その後、ダンカンの相棒・ディーディーが優秀な警察官として
表彰されることになり、ディーディーをエスコートして、
パーティ会場へ向かった。
そこでダンカンは、レアード判事の妻・エリースと出会う。
その美しさと聡明さに一目で恋におちたダンカン。
だが、ダンカンはその想いを自分で認めることが恐ろしい。

ある真夜中に、ダンカンは、レアード判事の邸宅に呼び出された。
エリースが侵入者を射殺したと言うのだ。
正当防衛を主張するエリース。だが、ダンカンは彼女の言い分に
納得できない。
謎めいた彼女の言葉を心のそこから信じることが出来ないのだ。
そこでダンカンは、ディーディーと二人で、エリースを調査することに。

殺人の容疑者・エリースにどんどん惹かれてゆくダンカン。
彼女の言葉を信じたい。でも信じられない。
その葛藤に次第に自分を見失ってゆくダンカン。
刑事として容疑者かも知れない女、しかも判事の妻に
思いを抱くなど・・・論外。
恐ろしい罪は犯したくない。しかし・・・・。

その後も、彼女の周りで次々と殺人事件が起こる・・・。
果てしてエリースは稀代の悪女なのか?それとも・・・?

一人の女性の悲しい過去が、罪を犯罪を呼び寄せてしまう。
その陰に暗躍する、犯罪組織の大物サヴィッチ。

一番のワルは誰なのか?
クライマックスのドンでん返しと超スリリングな展開に読者も翻弄される!

満足度NO1のサスペンスミステリーです。

『最後の銃弾』
著者:サンドラ・ブラウン/秋月しのぶ(訳)
出版社:集英社(文庫)
価格:¥933(税別)

警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ最新作「回帰」。

今野敏先生の人気警察小説シリーズ
「警視庁強行犯係・樋口顕」シリーズの最新作
「回帰」を読みました。
このシリーズは、「隠蔽捜査」(新潮社)「東京湾臨海署・安積班」
(角川春樹事務所)「警視庁捜査一課・碓氷弘一」(中央公論新社)
シリーズと並ぶ、今野作品、警察小説シリーズベスト4の中の1作です。

どのシリーズにも癖のある刑事が登場します。
(一番のクセモノは「隠蔽捜査」の竜崎ですが・・・。)
このシリーズの主人公・樋口顕は「熱い情熱を秘めた静かなる男」
と言ったイメージで、はまさきは安積警部補の次に好きな人物です。

今回は、テロリストが絡んでくる爆破事件。
四谷にある大学の近くで、自動車の爆発事故が起こった!
警視庁強行犯係の樋口は早速現場へ急行した。
大学関係者2名が死亡、多くの怪我人が出た爆発事故は、
調査の結果、「爆弾」によるものだと判明する。

宗教テロが疑われる中、現場近くで中東系の若い男がいた
との目撃情報が出た。
その男は現場近くの大学の学生のようだった。
樋口たちはさらに情報収集に動き出すが、上司である
天童管理官から、かつての部下で今は国際テロ組織に
入ったと噂される、因幡から連絡が入ったと打ち明けられる。

このタイミングでそのような噂のある男と会うと言うのは
警察官として危険ではないのか・・・?
樋口は危惧したが、因幡は「テロを防ぎたい」と
言ったという。
この爆発事件の捜査本部には、公安部も参加している。
本部としては公安に出し抜かれる前にどんな情報でも
欲しいところだ。天童と樋口は二人で因幡に会うことにした。

そして、捜査本部では、目撃された中東系の学生の
取調が行われていた。

テロの脅威を前に日本の警察はどう動くのか?
テロを防げるのか?
目撃された中東系の学生を拘留し捜査官たちは先走る。
これ以上犠牲者を出したくない思いはわかる。
しかし証拠もはっきりとしない現状で、この学生が
テロの一員なのか・・・?断定して良いのか?
迷う刑事たちの前で、樋口は警察官として決断を下す。
その姿勢に胸が震えます・・・。

事件の様相は、目撃者の証言でさらに混迷を極める・・・。

練りに練られた事件の展開、捜査員たちの動き、
関係者の証言から次第に真実にたどり着く過程は
何度読んでも面白い!

『回帰 警視庁強行犯係・樋口顕』
著者:今野敏
出版社:幻冬舎
価格:¥1,600(税別)

元・女性刑事の再生と恋を描く!「冬芽の人」

「新宿鮫」シリーズの著者・大沢在昌さんの作品。
元刑事の女性が主人公の「冬芽の人」。
今年の4月に鈴木京香さん主演でドラマ化されたようです。
(残念ながら視られなかった!!視たかったな~。)

大沢さんの描く作品は、鮫島刑事のようなクールで、
悪い奴は徹底的に倒す、そんなハードなイメージが
ありましたが、「冬芽の人」は、心に深い疵を
持つ元女性刑事が主人公だったので、どんな
作品なのか非常に興味を惹かれ読んでみました。

警視庁捜査一課の刑事だった、牧しずりは、6年前信頼する相棒の
先輩刑事とともに強盗殺人事件の容疑者と思われる男の家を訪ねた。
ところが、しずりは容疑者と思われる男に突き倒されてしまう。
そして先輩刑事は、しずりをかばって階段から転げ落ち大けがを負う。
容疑者と思われる男はそのまま逃走した。しずりは男を追ったが
走行中のトラックにはねられ死亡した。
病院に搬送された先輩刑事は、その怪我がもとで亡くなってしまう。

この事件は、捜査本部内でも疑惑の眼が向けられた。
なぜ死亡した男が容疑者だと思ったのか?
死亡した刑事と容疑者の間ではどんな会話が為されたのか?
しずりは先輩の言う通りの行動をとっていたため、何もわからなかった。

妻がありながら、しずりに好意を寄せていた先輩刑事。
自分をかばって亡くなった。彼の妻からはそう責められ、
しずりは罪の意識にさいなまれ、刑事を辞めた。

1年後、普通のOLになったしずりだったが、過去にとらわれ
会社内でもなかなか打ち解けることが出来なかった。
そして5年が経過した・・・。

しずりは、いつものように先輩刑事の墓参りに行った。
そこで一人の青年・岬人と出会う。
岬人は、なんと先輩刑事の息子だったのだ。
先輩刑事が亡くなった時、しずりを責めたのは2番目の妻で、
岬人は、先輩刑事の最初の妻との間に出来た子どもだった。
驚くしずり。しかし岬人のさわやかな態度と優しい心遣いに
頑なだったしずりの心は次第に解けてゆく。

岬人はしずりから6年前の事件の経緯を聞くと、納得できないような
ことを言いだした。自分の父親の死の裏で何か起こっていたのではと。
しずりも忘れようとしていた当時の事を思いだし、元刑事の感が
蘇ってきた・・・。

そんなある日、岬人から連絡が入った。
6年前、強盗殺人事件の容疑者をひいたトラック運転手が
岬人のバイト先で働いており、「合法的に人を殺せる。
大型トラックでひいてしまえばいい」と話していたというのだ。

しずりと岬人はその男が本当に6年前に容疑者をひいた男かどうか
確認するため、男が通っている食堂で待ち伏せをした。
しずりはやってきた男を見た時、間違いないと感じた。
その瞬間、しずりはその男と目があってしまう。
男の眼に宿ったのは、不審・・・そのあとの驚愕!そして怯えだった。
しずりは男の眼を見た瞬間、6年前の事件が何者かに仕組まれたものだと
気がつく・・・・。

しずりは、自分をかばって死んだ先輩刑事へずっと罪悪感を抱いていた。
そして、常になぜ自分は生きているのか・・なんのために生き残って
いるのかを考え続けていた。
それは、岬人との邂逅。そして6年前の事件の真実を白日のもとへ
曝すことなのだと気づく。
しかし、魔の手はしずりだけでなく、現在の彼女にとって命と同じくらい
大切な岬人へも迫っていた。
しずりは命をかけ、岬人を守ると心に誓う。

岬人との邂逅で、過去の自分と決別しようとする、しずりの心の変化が
手に取るようにわかる。
心に深い傷を持った女性が、男性の好意に素直になれない。
その描き方も大人だな~と感じる。

二人で事件に向き合う過程や、次々と関係者が亡くなって
いく不気味さ、何が起こっているのかなかなかつかめない謎に満ちた
ストーリー展開、しずりの底知れぬメンタルの強靭さと、恋に揺れるはかなさ。
それらすべてが絶妙なバランスで描いてあり、さらに大沢さんお得意の
ハードボイルドな展開も申し分ない。

長編だけれどその長さは全く気にならない。
むしろもう終盤!?と物語が終わってしまうのが
惜しいくらいの面白さだった。

次も女性が主人公の「ライアー」を読んでみたくなりました。

『冬芽の人』
著者:大沢在昌
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥840(税別)

萩尾警部補シリーズ待望の第2弾「真贋」!

シリーズ第1弾「確証」は、2013年に「確証~警視庁捜査3課」
というタイトルでドラマ化され、大ヒット!!

それからほんとに待ちました!!!
第2弾「真贋」も面白かったです!!!

警視庁捜査三課で窃盗事件を担当する、萩尾秀一警部補は、
盗犯捜査のベテランだ。そんな彼の相棒は女性刑事・武田秋穂だ。
まだ若いが、萩尾から盗犯捜査のイロハを吸収しようと必死だ。
今や、萩尾の‘頼れる’相棒となっている。

目黒区内で窃盗事件が発生したと無線が入った。
目黒署の管轄だが、萩尾は秋穂ともに現場へ向かった。
萩尾は窃盗の手口をみて、「獲物がある場所だけを狙う」
‘ダケ松’の仕業と見抜いた。

ダケ松は職質をかけられときとっさに逃げ出したらしい。
萩尾は、逮捕されたダケ松に話を聞きに行った。
ダケ松の態度を視て萩尾は、その供述に疑問を持つ。
どうやらダケ松には弟子がいるらしい・・・。
その疑念をそらすように、ダケ松は大物故買屋の名前を明かした。

同じ頃、渋谷のデパートで、陶磁器展が開催されるとの
連絡が入った。そこには国宝の「庸変天目」が一緒に
展示されるらしい・・・。
萩尾はダケ松の話から、大物故買屋がその陶磁器展に
絡んでくるのではないかと睨む・・・。

国宝が展示される陶磁器展に民間警備、萩尾達捜査3課。
さらに、警視庁捜査二課第2係(詐欺・背任・横領の捜査専門)の
捜査員・舎人刑事まで加わり陶磁器展の行方を見守るが、
そこで大事件が勃発する。

「国宝」の真贋に二転三転する捜査。
果たして真犯人は?そしてその手口とは?

盗みの職人VS盗犯捜査の職人!
職人同士のかけひきが見もの!
そして、秋穂の成長に目を見張る。
自信をつけた秋穂が、先輩の舎人刑事を
呼び捨てにするところはとても面白いです。

『真贋』
著者:今野敏
出版社:双葉社
価格:¥1,600(税別)

金融コンサルタントの暗躍をリアルに描く!「不発弾」

食品偽装をテーマに描いた「震える牛」
東日本大震災のボランティアをテーマに描いた「共震」

日本が抱える問題点を炙り出し、鋭くえぐる。
まるでノンフィクションのようなリアルさで迫る。
元・時事系の新聞記者だった著者・相場英雄氏。

そして今回描いたのは、日本経済最大のタブー!!!

日本大手の電機企業による巨額の粉飾決算が発覚し、
記者会見場で上層部が揃って謝罪するシーンから始まる。
記者たちの鋭いツッコミにたじたじの役員たち。
だが、彼らにはまだ逃げる術があるようだ。
彼らの陰に控えるある男は笑った。

警視庁キャリア・小堀秀明は警視庁捜査二課を束ねる管理官だ。
捜査二課は詐欺や贈収賄のほか、企業内の横領や背任行為など
知能犯を専門に摘発する。
日本大手の電機企業・三田電機は巨額の粉飾決算が発覚し
記者会見を行ったばかりだ。小堀は巨額の粉飾があったにも
関わらず、上場廃止にならない三田電機に疑惑を持った。

小堀は、金融界の様々な人物に接触し、捜査するうちに
ある金融コンサルタントの存在を掴む。
ターゲットをその男に絞り込み、過去にあった企業内の金融がらみの
事件を調べてゆくと、不審な自殺や事故で関係者が亡くなって
いることが判明する・・・。

その男は、バブル直前に証券会社に入社し、激動の金融業界を
あらゆる手段を講じて生き延びた。
そんな男が仕込んだ「不発弾」は、予想を超える規模でこの国を蝕んでいた・・・。

日本経済を陰で動かし暗躍し続けた男の半生と、小堀が男の正体を
暴いてゆく過程が交互に描かれて、物語が進むにつれ緊迫感が増してゆく。

実在の企業や人物は、もちろん名前を変えて描いているが、読んでいると
誰だかわかるようになっている。
これが事実ならば、この男が仕込んだ「不発弾」がいつ爆発しても
おかしくない。わずかな導火線で爆発は連鎖するだろう・・・・。
日本経済は崩壊するのか・・・?

そんな恐ろしい予感が常につきまとう、不穏なこの作品は鳥肌ものだ!!

『不発弾』
著者:相場英雄
出版社新潮社
価格:¥1,600(税別)